感情剥き出しの自分を、事も無げに見返す。恬然とした態度で、殴れと告げる。
相手が、大きく見える。
聡は一度、瑠駆真を殴った。この駅舎で、部屋の隅まで吹っ飛ばした。
だが今の瑠駆真に、怯む素振りはまったく見えない。
「殴ればいいさ」
泰然自若
「僕を殴っても、美鶴は出てこない」
ちっくしょぉぉぉぉぉっ!
「っざけんなよ」
瑠駆真がフイっと視線を外す。
「半日か」
「あん?」
「半日あれば、いろいろできる」
そこで不敵に聡を笑う。
「答えられないならそれでいい。今日半日、美鶴は僕のモノだから」
信じられない。こんな駆け引きが、この僕にできるなんて。
「美鶴は僕だけのモノだからね」
「だがここに、美鶴はいない」
必死に己を押さえ込む聡。爆発しそうな頭で、必死に考える。
「お前が美鶴の所へ行くのか、それとも美鶴が戻ってくるのか。そんなのはどっちでも構わねぇ。お前に付いてりゃ、美鶴に会える」
「そう思うならご自由に」
クスッと半眼で笑われる。
聡はチッと舌を打ち、辺りを見渡した。美鶴の姿はどこにもない。
どこ行った?
睨み付ける相手は、頬杖をついたまま。
腹立つなっ!
グッと拳を握り、だが振り上げることはしない。
待てばいい。
だが聡はそれほど、気は長くない。
うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜っ!
「学校だよっ!」
この勝負、聡の負け。
「夏休みに、学校でさ」
ヘタな嘘など、通用するはずはない。
「学校?」
「アイツ、夜の学校に忍び込んだんだ」
初めて瑠駆真の表情が揺らいだ。
「忍び込んだ? なんで?」
「なんでだと思う?」
フッと、思わず笑ってしまう。くだらなくって、笑ってしまう。
「アイツ、夏休み前の模試の順位が気になってしょうがなかったんだよ。でもクラスのヤツらの前では確認できない。そんな姿を他のヤツらに見られるのが、嫌だったんだろうな」
そこで言葉を切り、瑠駆真を見やる。
「英語の順位が、気になってたんだ」
今度は瑠駆真が、視線を逸らす。
なんてコトを――――
「俺はたまたまその時学校にいてさ」
「たまたま?」
「蔦と体育館借りて、バスケでもしようと思ってな」
嘘だけど、緩や母との一件までコイツに話す必要はないだろう。
「結局蔦は用事が出来てこれなかったけど、その時偶然忍び込む美鶴を見つけてさ。で、何やってんのかと思って、教室まで後つけたんだよ」
これは本当だ。
「で? 喧嘩?」
瑠駆真の問いかけに、聡の鼓動は早くなる。
「誰にも見られたくない姿を俺に見られたってんで、ひどく怒ってさ。ハハッ 八つ当たりってヤツだよな」
言える―― ワケがない。
自分の中から消してしまいたいと思う。他人になど、ましてや瑠駆真になど、言えるはずもない。
「お互い、苦労するな」
自嘲気味に笑いながら、ドスンと椅子に腰を下ろした。そうして徐に相手を見る。
「ほら、話したぜ」
右手の掌を振って、相手を促す。
「美鶴、どこだよ?」
「知らないよ」
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